ランセットという世界有数の権威ある医学雑誌に2017年、「認知症の修正可能な9つのリスク要因」が掲載され、大きな話題となりました。
喫煙、高血圧、肥満、糖尿病などの要因が挙げられている中で、認知症になる危険性がもっと高い要因は、「難聴」だったのです。
「修正可能な」ということは、これらの危険因子を避けることができれば、認知症になる危険性を下げることができるということです。
実際の研究データでも、補聴器を使用して聞こえやすくすれば、認知症発症に予防効果が期待できることが多くの研究で示されています。
なぜ難聴が認知症につながるのか?
しかし、そもそもなぜ難聴になると認知症が発症しやすくなるのでしょうか。その理由は完全に解明されているわけではありません。
社会的な面と脳の働きの面、2つの側面から有力な説をご紹介しましょう。
社会的な面
①難聴で十分なコミュニケーションが取れなくなる
↓
②社会活動の減少
↓
③うつや社会的孤立
↓
④認知機能の低下
脳の働き側面
①耳からの情報減少
↓
②神経活動の低下
↓
③脳の構造変化(萎縮)
↓
④認知機能の低下
補聴器をつければ認知症が防がれるというわけではない
もちろん、補聴器をつけて、難聴を補いさえすれば、認知症が防がれるということではなく、糖尿病や動脈硬化があれば、それらの点にも対策を立てないと効果が出ないかもしれません。
そもそも上記の話は、聴力正常なら認知症は0%、難聴者なら認知症が100%、というような現実離れした極端なことを言っているわけではありません。
例えば、聴力正常者で認知症の人は5%、難聴者で認知症の人は10%、補聴器を使うと認知症の人の割合が8%に下がる、というような微妙な数値の比較から科学的に立証されていることなのです。極端な解釈は決してしないようにご注意をお願いいたします。
補聴器にまつわる誤解~より良い補聴器との向き合い方~
すぐ改善するのではなく、リハビリによって改善させていく
補聴器は、メガネのように、かけるとすぐに役立つものではありません。補聴器をその人に合うように微調整を続け、人は補聴器の音を言葉として聞き取れるように脳の訓練をするという、器械と人間、お互いの歩み寄りが必要なのです。
補聴器で小さな音が耳に入るようになっても、言葉を理解するためには脳のリハビリが必要になります。補聴器をきちんとつけて、脳を活性化させるトレーニングを続けていくと、耳の聞こえは徐々に改善されます。ポイントは、本人が納得してリハビリを続けられるかどうかなのです。
販売店より医療機関で購入・調整が望ましい
補聴器によって聴力のリハビリを行うにあたって、補聴器の購入・調整を行うのは、販売店よりも医療機関が望ましいです。例えば、眼鏡屋さんで補聴器を購入した場合、販売店側で顧客という立場の人にトレーニングの必要性を説くのは難しいと言わざるを得ません。
補聴器の調整が適正でも『うるさくて付けていられない』と言われれば、店として補聴器の増幅レベルを下げるしかありません。そうしていくと適正な調整から外れてしまいます。
そこで、耳鼻咽喉科医師や言語聴覚士などの専門家の出番となります。トレーニングやリハビリに取り組む当人の心情としては、専門家の指導があってこそ、取り組み続けることができるのではないでしょうか。
補聴器の購入・調整を耳鼻咽喉科の医療機関で行っていただきたい理由がそこにあります。気になる方は一度老木医院までご相談ください。