難聴を「きこえなくなること」と誤解している方が多いようです。
難聴は「聞こえにくくなること」で、「聞こえなくなること」ではありません。
難聴には様々な程度があり、ほとんど聞こえなくなることを高度難聴といいます。
難聴が認知症の原因になり得る
認知症のリスク要因として、高血圧、肥満、喫煙などとともに難聴や社会的孤立が挙げられています。
なかでも難聴は最も影響が大きく、社会的孤立の一因にもなるため、最重要因子として注目されています。
その対策として、比較的若い世代では騒音暴露からの保護が重視され、高齢者では補聴器の使用が奨励されています。
若年者の難聴(ヘッドホン難聴・イヤホン難聴)
100dB以上の大音響で急に難聴が生じることは以前から知られており、ロック(コンサート)難聴とかディスコ難聴と言われていました。
医学的には音響外傷と言われる状態です。
しかし、最近ではそれとは別に80dB程度の音(地下鉄の車内)でも長時間、聴くことによって難聴が生じることが分かってきました。
携帯型音楽プレーヤーやスマートホンでも十分に有害な音量になりうるということです(ヘッドホン難聴・イヤホン難聴)。
そのため、35歳以下の若者で難聴のリスクが高まっていると警鐘が鳴らされています。
予防
なるべく小さな音で聴くこと、長時間の使用を避けることが推奨されています。
中高年の難聴
難聴が認知症を引き起こすのは、音刺激が乏しいため聴覚中枢を使わなくなることで脳の血流が悪くなり、脳の働き自体が低下するためです。
難聴の原因はいろいろあり、予防や治療が可能な場合は難聴改善が優先されます。
しかし、最も多い原因の加齢変化をはじめ、改善が難しい場合も少なくありません。
ただ、認知症を防止するという点では、難聴が改善しなくても、補聴器を使い脳に音刺激を入れられれば、かなりの認知症防止効果が得られるはずです。
聴覚の意味
コミュニケーション
五感の1つ、聴覚は、人とのコミュニケーションをとるうえで重要で、高齢者では社会的孤立を防ぐ重要な感覚です。
危険回避
後ろから近づく車や生活上のアラーム音など、危険を回避するためにも大切です。
文化的側面
小鳥のさえずりや波音など自然の音、音楽などを聴き、心を豊かにします。
そして、今日、認知症の予防という大きな因子が加わったということです。
補聴器の役割
上記の聴覚の意味、それらがそのまま補聴器の役割になり得ます。つまり、
- 人との会話でコミュニケーションを良好に保つ
- 生活上の音、呼び鈴をはじめとするアラーム音など、安心安全に生活する
- 自然の音、音楽など、文化的な生活を楽しむ
- 社会的孤立を防ぎ、認知症の発症を抑える
などです。
補聴器を役立たせるために
補聴器は、残念ながら、着けたその日から役立つ器械ではありません。
人それぞれ感覚には違いがあるため、個人個人にあった補聴器へと微調整を繰り返す必要があります。
そして、それだけでも補聴器は便利な道具になりません。その補聴器にあなたの身体・耳を慣らしていく訓練が必要です。
つまり、人と補聴器、お互いが歩み寄ってはじめて便利な道具になるというわけです。
当然、『慣れる』のは高齢になるほど難しくなるので、早めに使い始めるのが良いのです。
なるべく若いうちにつけ始めることと、難聴が軽いうちにつけ始めること、これが補聴器を便利な道具にするコツです。
補聴器がうまくいかない原因
補聴器を使うことへの意欲が低い
補聴器が便利な道具にならない最大の原因は、きわめてはっきりしています。
補聴器をつける本人に、補聴器をつけて少しでも音のある生活を改善させようという意欲が低いことです。
特に、会話の正確な聞き取りの必要性が薄い人にとっては、「まだ聞こえている」とか「不便なことはない」と感じている人が多く、それが補聴器がうまくいかない最大の要因です。
高齢になればなるほどその傾向は顕著です。また、「格好が悪い」という理由もかなりの高齢者が根強く意識しています。
補聴器に慣れない・補聴器で補いきれない
ほかにも、高齢のために補聴器に慣れていかない(補聴器に歩み寄れない)とか、難聴が高度で補聴器で補いきれないという場合もあります。
家族の一人に難聴があると、他の家族は会話が進まない、反応が悪い、テレビの音が大きいなど、敬遠しがちになり、孤立が深まります。
そして、それに耐えかねて補聴器装用目的で耳鼻科を受診していただいても、本人にはトンと難聴の自覚がない、ということはめずらしいことではありません。
「聞き返し」などが気になってきたら、本人とよく話し合い、今起こっている不便や将来の障害についてしっかりと自覚していただくところから始めることがとても大切なのです。